くらのかみ

投稿者 笹崎辰裕
ある雪山での話です。
四人の登山者が日帰り予定で山に向かいました。春が近いのでそれほどの装備も持たず、雪渓にだけ気をつければよい、気軽なはずの登山でした。
しかし予想を大きく外れ、雪山はその姿を変えていきました。
突然の吹雪に見舞われた4人は何とか避難できる場所を必死に探しました。
不意に現れた山小屋にどれほどの救いを覚えたことでしょう。
当初計画した時間を大きく越えて小屋の中は真っ暗でした。
明かりをつけるための装備もなく、暖を取るための備えもなく、4人はそれぞれの声を頼りにお互いの状況を確認しました。
小屋を震わす風の音はまだまだ吹雪がやまないことを感じさせ、さらに4人を不安にさせました。想像以上のアクシデントに4人の疲労も非常に大きく、下手をすればそのままその場に倒れこむのを必死でこらえるのが精一杯でした。
一人がある提案をしました。
このままでは4人とも眠りこけてしまい、間違いなく凍死してしまう。何とか眠らず朝を迎える手立てをしなければならない。そのために4人がそれぞれ小屋の隅に行き一人が反対側まで行き肩を叩く。叩かれた相手は次の隅まで行き肩を叩く。そうやって夜をすごそうと。
4人は疲労感にあふれていましたが、その提案に賛成しました。
提案をした者が最初に肩を叩きました。そして次の者がその次の者へ。
そうやってどれくらいの時が過ぎたのか。
風の音が止み小屋の窓に初めて光が差し込みました。
安堵感が4人を包み一瞬全ての疲れさえも忘れました。
そして無事4人は山を降りたのでした。
私達は目に見える者。目に見えない誰かにも助けられて生きているのでしょうね。

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