心の師

投稿者 笹崎辰裕
この月の始めに、私共でお住まいをご担当させていただいたお施主様がお亡くなりになられた。
お伺いするといつも笑顔で迎えてくださり、とてもうれしい気持ちにさせていただいた。
この方は私の碁の師匠である。
といっても私はたいして碁は打てない。ルールを知っているくらいである。
「いくつでも置石をしてもいいですよ」
私はとりあえずプライドの許す限り石を置かしてもらう。
ぱちん、と師が打つ。ぽち、と私が打つ。
ぱちん。ぽち。がしばらく続き
「はい。いただきますよ」
と言ってごっそり石をとられるのがいつものパターンだ。
「シチヨウ知らずは碁を打つな」
そういわれてごっそりとられ、思いきり負けた後
「さあ、もう一回打ちましょうか」
いつもと同じ笑顔で師が笑う。
こんなへぼと打って何が面白いのか。でも面白がっているのはよくわかる。
そんな師が大戦の時の話をして下さった時がある。
「魚雷がね、船の下を通り過ぎていくのが見えるんですよ。私の船は貨物用だったので底が平らでね。それでぶつからなかったんですよ」
からからと笑っていたが、私は何処で笑っていいのかわからなかった。怖くはなかったのかと聞くと、それすら麻痺したのだという。そしてまた笑った。
私が男の子が出来たと報告したとき奥様が男の子も欲しかったといったのにたいして、その代わりにあんな良い娘達に恵まれたろうと言って、そうですねえと応えた奥様と二人で笑っていた。
最後に碁を打ったときに、たいして私が練習していないのもわかっているだろうに
「強くなりましたかねえ」
と仰られた。もちろん一目でわかるくらい師の圧勝だったけど。
今は心より御冥福をお祈りします。
もう伝えられないけど、色々ありがとうございました。

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